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第62話 特別なフェロモン②

Author: 霞花怜
last update Last Updated: 2025-07-08 19:30:19

「……理玖、さん……ぁ……、はぁ……」

 晴翔の口から、苦しそうな弱い声が零れた。

 晴翔の眼瞼を持ち上げて眼球を確認する。軽度の上転が見られた。

(体温上昇と大量発汗、頻脈、恐らく血圧も高い。興奮剤オーバードーズの副作用だ。この眼球上転は、tripしかけているのかも)

 晴翔の体がビクビクと小さく痙攣している。

 規定をはるかに超える量の興奮剤を、恐らく短時間で一気に打たれたのだろう。中毒を起こしかけている。

 大量のフェロモンで絶頂する時に起こるはずのtripが、薬の影響で引き起こされる可能性がある。

(限りなく自然に近い発情を、薬剤で意図的に引き起こされた状態なら、絶頂すれば収まるだろうけど。飛びかけている今の状態で絶頂したら、確実にtripする)

 tripしたら正気を失って、場合によっては意識障害を引き起こす。

 最悪、酩酊状態のまま断続的な発情を続ける、脳機能障害を起こす危険もある。

 ワイドショーが面白がって取り上げる犯罪集団Dollが好んで使うtripという手段は、実は大変に危険な方法だ。

 かといって、違法に持ち込まれたであろう外国の治験薬を中和できる拮抗剤は、今の日本にはない。

 病院に搬送されたところで、適正な処置がされるかは疑問だ。

(tripさせずに助ける方法。考えろ、何か方法があるはずだ。僕なら思い付く、僕なら出来ることが何かある)

 晴翔の手を強く握る。

 汗ばんだ手に力がない。どんなに握っても、晴翔は握り返してくれない。

(tripを避けるためには、絶頂させられない。でも、興奮を醒まさないと……。薬で煽られているのに、イカせないで興奮を醒ますって、どうすれば……)

 薬剤投与で脳科学物質を刺激されている、本人の意志に反し

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